睡眠負債が子供の脳に与える悪影響とは?安眠のコツと負債解消のポイントを紹介

人間にとって睡眠は、脳や体を休めるために重要なものです。しかし近年、大人だけではなく子供の中にも、睡眠負債を抱えている人が多いと言われています。睡眠負債の増加が脳に与えるダメージや、どのように解消していくべきなのか、安眠のコツと共に紹介していきます。

睡眠負債の害

人間にとって睡眠は非常に重要なものですが、忙しいときには、つい削ってしまいがちなものでもあります。人間誰でも、さまざまな事情により一時的に睡眠不足に陥ることはあるでしょう。しかし、この睡眠不足の状態を解消できないまま、長い時間が経過するのは危険です。睡眠不足が、まるで借金のように積み重ねていってしまう様子を、「睡眠負債」と言います。

少し前までは、睡眠不足といえば「大人が抱える問題」と捉えられてきましたが、近年はその低年齢化が問題になっています。幼いころから睡眠負債を抱えることで、子供の成長が妨げられてしまう恐れがあるでしょう。

睡眠負債を抱えた子供は、心身の疲れを夜の眠りの中でじっくりと癒すことができません。情緒が不安定になったり、体や心に障害が起きやすくなったりするとも言われています。常に疲れが抜けない慢性疲労症候群に陥る可能性も高くなり、勉強や遊び、スポーツなどを積極的に楽しむことができなくなってしまいます。

また、子供の成長をサポートする成長ホルモンは、就寝中に分泌されます。睡眠不足が重ねれば、当然こうした面での害も表面化してくるでしょう。このほかにも、脳が疲れを引きずることでストレスを抱えやすくなったり、体の力が低下することで免疫力が弱くなってしまったりと、日常生活に支障をきたすような害も報告されているのです。

大人にとっても、成長ホルモンの分泌減は重要な問題です。新たな細胞に生まれ変わる過程で必要となるのは、やはり成長ホルモンだからです。睡眠負債を抱えることは、老化を早める原因にもなってしまいます。

睡眠負債が脳に与えるダメージ

子供の脳力を伸ばしたい!と考えたときにも、睡眠負債は多大な悪影響を与えてしまいます。もともと脳は、起きている最中に得た「記憶」を、睡眠中に整理して、長期記憶へと定着させていくと言われています。睡眠負債を抱えた状態では、この作業をうまく行うことができません。子供自身がどれだけ頑張って記憶しようとしても、長期記憶になりにくいという特徴があるのです。

また、子供の脳を発達させるためには、セロトニンという脳内物質が非常に重要な役割を果たしています。セロトニンを分泌させるためには、夜にしっかりと眠り、朝は気持ちよく目覚めること、そして朝の光をしっかりと身体に浴びることが重要となります。また、昼間の時間に、しっかりと身体を動かすことも大切なのです。睡眠負債を抱えた子供は、「朝はできるだけ眠りたい」と感じるケースも多いですし、日中の活動が消極的になってしまうケースもあります。

充分なセロトニンが分泌されなければ、脳の発達は阻害されてしまいます。自身の感情のコントロールが難しくなったり、落ち着いた環境の中で学習したりすることが難しくなってしまうでしょう。子供の時期は、心も体も、そして脳も大きく成長させる時期です。この時期に脳にダメージを与えてしまうことは、非常に深刻な問題だと言えます。

寝だめで睡眠負債を解消できるのか?

睡眠負債を抱える子供たちの中には、「平日の塾や習い事、課題などが多くて仕方がない」と語る子供も少なくありません。このような場合に気になるのが、「平日の睡眠負債を休日の寝だめで解消することはできるのか?」という点です。

大人の軽度な睡眠負債の場合、週末の寝だめで改善することは「ある程度可能」と言われています。週末にゆっくりして、また月曜日に元気よく出社できるようであれば、問題はないでしょう。しかし、心と身体、脳が発達途中にある子供の場合は、少し状況が異なります。

子供の脳を睡眠負債から守るためには、毎日の生活のリズムをしっかりと整えることが大切です。平日の睡眠負債を休日に返済しようとしたからといって、その分休日に、ぐんと脳が発達するわけではありません。「休日は寝だめ」という習慣を取り入れることにより、さらに生活リズムが崩れれば、脳のダメージもより深刻化する恐れがあるでしょう。

もちろん「疲れているから今日は早く眠る」などの工夫は、悪いことではありません。しかし、あくまでもそれは「応急処置」と捉えてください。脳を健やかに発達させるためには、まず「睡眠負債を抱えない」ということが何よりのポイント。そしてそのためには、平日の生活習慣や忙しすぎるスケジュールの再調整など、親が積極的に関わって、子供の睡眠を守る仕組みを整える必要があるでしょう。

睡眠負債を解消するには?

日本の子供たちは、世界的に見ても睡眠負債を抱えている割合が高いと言われています。一刻も早くその状況を改善することが、健やかな成長をサポートするために必要なのです。

具体的には「早起き」と「朝ごはん」の習慣をつけるところからスタートしましょう。人間の体内時計は、24時間ピッタリで巡っているわけではありません。放っておくと徐々にずれていってしまうところを、調整する役割を担っているのが「朝の光」です。朝の光をしっかりと浴び、体内を活性化することが欠かせないのですね。もちろん「朝ごはん」も、体や脳を活性化させる役割を担っています。

さて、このような工夫で「朝型」のリズムが身に付けば、夜は自然と眠気が襲ってきます。このタイミングを逃さないことで、自然と「睡眠負債を解消し、抱えない生活」を手に入れることができるでしょう。

また、日常生活の中で、子供の睡眠を邪魔するものを、できる限り取り除くという工夫も必要になってきます。睡眠負債を抱えるきっかけについて、「ゲーム」や「テレビ」、「インターネット動画」を挙げる意見は少なくありません。全部合わせて「1日に2時間程度」と制限することで、子供の睡眠への悪影響をストップできます。

また、子供にとって「親の生活」は非常に影響力の大きなもの。親自身も朝型の生活を送ると共に、「子供を寝かせる工夫」を取り入れることが重要なのです。これらの解消法は大人にとっても有効なもの。ぜひ取り入れてみてください。

安眠のコツ

日常的な睡眠負債を解消するためには、「夜に安眠させる」ということが重要です。「放っておいても、眠くなれば眠るはず」というのは大きな間違い。「夜にしっかりと眠る」ためには、積極的な環境づくりが大切なのです。

幼児期の子供の場合、まず真っ先に見直したいのが「お昼寝」に関する習慣です。昼寝をし過ぎて夜に眠れなくなってしまうのは、本末転倒です。昼寝の時間を短くする、早めに切り上げるなどの工夫で、夜の睡眠を妨げないようにしましょう。

また、夕方から夜にかけての生活習慣によっても、子供が安眠できるかどうかは変わってきます。この時間に子供を興奮させる運動や遊びを取り入れると、脳が活性化してしまい、うまく眠りにつけなくなってしまう可能性も。テレビやゲームによる刺激も同様のことが言えますから、「ほどほど」を意識するのがオススメです。

寝室に入ってからは、快適な温度や湿度、暗さに調整することが大切です。「早く寝なさい」とイライラするのではなく、子供にとって信頼できる大人が傍にいて、心地よい感覚の中で眠りにつけるスタイルが理想的です。子供が安心できるような特別なアイテムを用意するのも良いですし、身近な大人がトントンしたりマッサージしてあげたりするのも、子供の安眠を促すのに良い方法です。

大人にとっても眠る前の習慣や寝室の環境は重要なポイント。安眠できていないと感じるときには、ぜひその原因を探り、取り除いていきましょう。


大人にとっても子供にとっても、睡眠負債は心や体に悪影響を与えてしまうものです。日本では、特に睡眠負債を抱えている人が多いと言われていて、楽観視するのは危険です。何をどうすれば睡眠負債を解消できるのかについて、正しく理解して、積極的に取り組んでみてくださいね。

参考サイト

参考文献

  • 陰山英雄 神山潤 瀬川昌也(2007)『「早起き」は生きる力!』株式会社晶文社