ストレスフルな現代において、患者数が増加している病の一つが「うつ病」です。実際に自分自身が、もしくは身近な誰かがうつ病を患い、非常に苦しい日々を送っている……なんて方もいるのではないでしょうか。
うつ病の治療のために欠かせないのが、病気ときちんと向き合うこと。そのためには、適切な知識を身につけることが必要不可欠です。うつ病とはどのような病で、どんな症状が出るのでしょうか。身近な人が知っておきたい、チェックリストと共に、治療法についても説明していきます。
うつ病とは
まずはうつ病についてです。うつ病とは、さまざまなストレスを抱え、それに耐えきれなくなってしまったときに、脳が機能障害を起こしている状態を指しています。少し前までは、「甘え」や「根性不足」などと表現されることも多かった「うつ病」ですが、決してそのようなことはありません。うつ病によるさまざまな症状の原因は、「脳がきちんと働かないこと」に由来しており、自身の気持ちや根性だけで、なんとかなる問題ではないのです。
日本で「これまでにうつ病を経験した人」の割合について調査すると、「100人に3~7人」という割合が出ると言われています。約33~14人に1人というわけですから、身近なところにうつ病経験者がいても、なんら不思議ではありません。
また、うつ病は、発症したからといって、わかりやすいサインが現れるとは限りません。自覚がないだけで、「実はうつ病だった」なんてケースも、少なくないと考えられています。
なんとなく不調を感じても、その原因を特定できず、「最初は内科を受診して原因を探ってもらった」という患者さんも多くいます。原因が特定できないと、不安ばかりがどんどん大きくなってしまう可能性もありますから、頭のどこかに「うつ病」というキーワードを入れておくと良いでしょう。
うつ病でもっとも怖いのは、誤解や偏見により、適切なサポートが受けられないことです。放っておくとどんどん進行してしまいますから、早めの対処が重要な病気だと言えます。
うつ病になると心、体にどんな症状が出るのか?
うつ病を早期発見し、早期治療に取り組むためには、気になる症状を見逃さないことが非常に重要なポイントとなります。うつ病になったときに、心や体に現れる症状はさまざまですが、以下に代表的なものをまとめます。
<軽度の症状>
- 不安が大きい
- やる気が起きない
- 疲れが抜けない
- 決断できない
- 集中できない
こちらは、うつ病を発症するかどうか、きわどいタイミング目立ってくる症状です。一つ、二つであればまだ大丈夫と言えそうですが、いくつも重なる点があれば、すでにうつ病を発症していると言えます。
<初期・中期の症状>
- ふらふらする
- 将来のことを考えると、不安でたまらない
- 夜眠れない、朝早すぎる時間に目が覚めてしまう
- 眠り過ぎてしまう
- 頭が回らず、とにかく体が重い
- 動悸がする
- 物忘れが増える
軽度症状を見逃し、徐々に症状が進行すると、生活に支障をきたすケースも少なくありません。周囲の人がうつ病かも……と思ったときには、これらの症状がないかどうか、チェックしてみてください。
<重度の症状>
- 動きが緩慢
- 何に対しても意欲が持てず、引きこもってしまう
- 常にむなしさを感じる
- 生きる希望を感じられず、死について考えてしまう
うつ病の症状は、気付かないうちに進行しているケースも多く、「気付いたときには重度のうつ病だった!」なんてこともあり得るのです。特に普段から、真面目で頑張り過ぎてしまうタイプの方は、注意した方が良いでしょう。
うつ病の簡易診断、チェックリスト
非常に身近な病気だとはいえ、「自分や身近な人が、まさか……」という意識が働きやすいのも、うつ病の特徴です。きちんと対処をするためには、まず病気に気付くことが大切です。
うつ病かも……と思ったときのチェックリストを紹介します。それぞれの設問に対して、「いいえ」「ときどき」「しばしば」「つねに」の4段階に分けて、自身の状態をチェックしてみてください。
- 体がだるく、疲れやすいと感じますか?
- 周囲の騒音が気になると感じることはありますか?
- 気分が沈んだり、気持ちが重くなったりすることはありますか?
- 音楽を聴いて、心がウキウキすることはありますか?
- 朝に無気力になることがありますか?
- 相手との議論に集中できないと感じることがありますか?
- 首コリや肩コリが気になりますか?
- 頭痛持ちですか?
- なかなか眠れず、朝早くに目が覚めてしまうことはありますか?
- 事故やケガをする機会が増えたと感じますか?
- 食事の味がしない、と感じることはありますか?
- 前は楽しかったテレビを見て、「楽しくない」と感じることはありますか?
- 胸がくるしくなることはありますか?
- のどの奥に、何かがつかえている感じがありますか?
- 人生がつまらないと感じることがありますか?
- 前にも、同じような感覚に陥ったことがありますか?
- 本来の自分は、仕事熱心で几帳面だと感じますか?
「つねに」と回答する項目が多ければ多いほど、うつ病である可能性は高まります。もちろんそれだけで判断できるわけではありませんが、ぜひ早めに医療機関を受診してみてください。より正確な診断につながるはずです。
うつ病の治療法
「一度うつ病になると、治療が困難である」というのは全くの誤解です。うつ病には、さまざまな治療法が存在しており、その人に合った治療を進めていくことで、きちんと治すことが可能なのです。うつ病になったからといって、決して悲観する必要はありません。
代表的な治療法として挙げられるのが、薬物療法です。うつ病の原因は、脳の機能不全にあります。適切な薬物を用いて、脳の内部のバランスを正常に近付けてあげることで、うつ症状を緩やかに改善に向かわせてくれます。
「薬物療法」と聞くと、ギョッとしてしまうかもしれませんが、うつ病で悩む方の6~7割の方に効果があるとされている、非常に有効でスタンダードな治療法となりますから、どうか安心してください。
また、薬物療法と並行して、カウンセリングや各種精神療法、電気けいれん療法やTMS治療(磁気刺激による体への負担が少ない治療法)などが行われるケースもあります。これら以外にも、家族や身近な人を含めた心理教育が行われたり、うつ病の原因を絶つための環境調整が行われたりすることもあります。
うつ病は、その原因も心や体に現れる症状も人それぞれだからこそ、専門医のもとで「患者さんそれぞれに合わせたベストな治療の組み合わせ」を探っていくことが大切です。だからこそ、治療への第一歩として、まずは専門医のもとを訪れてみてください。
うつ病は、誰にとっても身近な病気です。「自分は大丈夫」「私の家族に限って……」と油断するのは禁物です。大人であっても子どもであっても、うつ病を発症するリスクはあります。うつ病の症状やチェックリストを頭に入れた上で、気になることがあれば、ぜひ早めに確認してみてください。
参考サイト
参考文献
- 和田秀樹(2016)『身近な人がうつかなと思ったら読む本』小学館